これまで「表面マーカー」という言葉を使ってきましたが、フローサイトメトリーでは細胞表面には発現していない、細胞質に存在する抗原についても調べることができます。

代表的な細胞質内の抗原としてミエロペルオキシダーゼ(MPO)を例に挙げます。御存知のように、MPOは顆粒球系の細胞のマーカーになります。しかし、MPOは細胞表面に発現していないため、ある細胞がMPO陽性かどうかは通常のフローサイトメトリーではわかりません。そこで細胞内染色を行うことによって、細胞質に存在する抗原の有無を調べることができます。

たとえば、白血病細胞のMPOをフローサイトメトリーで判断したいとします。上記のように、MPOは表面に発現していないため抗MPO抗体を使っても通常の表面マーカーのようには検査できません。

MPObefore.png

そこで、細胞内染色を行います。詳細な手順は省きますが、細胞膜に穴をあけることにより、そこから蛍光色素で標識した抗体が細胞内に入ることができます。細胞内に入った抗体がMPOと反応することになります。

MPOafter.png

これをフローサイトメーターで解析します。

細胞内染色で検査した場合はcytoplasmic MPO(cyMPO)と表記することがあります。MPOは細胞内にしか存在しないので、わざわざ「cytoplasmic」をつけずにMPOとだけ表記することもあります。CD3などは表面にも発現しているため、区別が必要なときは細胞表面のCD3をsCD3 (surface CD3)、細胞内のCD3をcyCD3と表記します。
造血器腫瘍の診断のために、MPO、cyCD3の他にTdTやcyλ・cyκなどの細胞内染色が用いられます。

なお、細胞内染色を行って解析すると、非特異な蛍光が強くなります。そのため、陰性・陽性のカットオフについては注意する必要があります。

まとめ
細胞表面に発現していない抗原でも、細胞膜に穴を開け細胞内染色を行うことで解析が可能となる。