フローサイトメトリーの読み方

造血器悪性腫瘍を診断するためのフローサイトメトリーの見方についてのブログです。 血液疾患を診療する医師、および末梢血や骨髄の検査を担当する検査技師向けの内容になります。

2015年03月

Case 002

腎機能障害と貧血、Mタンパクを認め骨髄検査を施行。骨髄に形態異常のある形質細胞を認めた。

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CD38-SSCで展開した図で、CD38の発現が高い部分(CD38high)にゲートがかけられています。CD38high領域には14.2%の細胞を認めます。
ゲート内では、cyκ : cyλ = 1.1 : 83.5と著明な偏りがあります。CD38high領域にクローナリティを持つ細胞を認め、多発性骨髄腫と考えられます。
ちなみに「cyκ」は細胞質内κ(cytoplasmic κ)の略です。骨髄腫では基本的には細胞表面に免疫グロブリンを発現していないため、細胞質内のκ/λ比を見てクローナリティを判断します。

本例ではCD19は陰性、CD56は陽性です。正常な形質細胞はCD19陽性、CD56陰性ですが、多くの多発性骨髄腫はCD19が陰性となります。骨髄腫ではCD56が陽性となることも多いです。

骨髄の鏡検像や免疫電気泳動などの結果からIgG-λ typeの多発性骨髄腫と診断しました。

フローサイトメトリーの所見
CD38high領域にCD19-CD56+cyλ+の細胞を認め多発性骨髄腫と考える。

Case 001

汎血球減少を認め骨髄検査を施行。骨髄ではMPO陽性の芽球を認めました。
骨髄のフローサイトメトリーを以下に示します。

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CD45dim領域(gate1)に24.9%の細胞を認めます。
CD45dim領域の中身を確認すると、CD13, CD34, HLA-DRが陽性。CD33の陽性率は34.1%ですが、弱陽性(dim)と判断します。CD13, CD33という骨髄球系のマーカーが発現しており、急性骨髄性白血病と判断できます。今回検査した範囲では、aberrant expressionは無いようです。

リンパ球領域(gate2)に34.3%の細胞を認めます。
ゲート内のCD3陽性細胞の割合から、T細胞は68.2%とわかります。CD4陽性細胞は37.8%、CD8陽性細胞は33.7%です。CD4陽性細胞+CD8陽性細胞の合計は68.2%にはなりませんが、フローサイトメトリーでは多少の誤差が出ることが多いです。
CD19陽性細胞の陽性率から、B細胞は19.0%になります。
CD2陽性細胞は61.2+17.3=78.5%、CD3陽性細胞が68.2%なので、NK細胞は78.5%-68.2%=10.3%になります。
リンパ球領域には明らかな異常細胞は指摘できません。
なお、NK細胞は17.3%(CD2陽性かつCD56陽性の細胞の割合)とカウントしても本質的には大差ないと思います。

骨髄の鏡検像からの診断は急性骨髄性白血病(FAB : M2、WHO2008 : AML, NOS AML with maturation)でした。

フローサイトメトリーの所見
CD45dim領域にCD13+CD33dimCD34+HLA-DR+の細胞を全体の24%認める。

フローサイトメトリー報告書の解釈のしかた

まず、どんな患者さんから何の検体を採取したかを確認しましょう。
患者さんは汎血球減少?リンパ節腫大?化学療法後の寛解確認?
検体は骨髄液?リンパ節?末梢血?髄液?
これらのことから、そもそも想定している病態・疾患が絞り込めていると思います。

報告書ではまずゲートをかけている図(FSC-SSCやCD45-SSCで展開している図)を見ましょう。
今回はCD45-SSCで展開している図だとします。
CD45-SSC.png

リンパ球、単球、顆粒球にそれぞれ分離されていると思います。
白血病であればCD45dim領域に細胞がいるかもしれません。

ゲートはどこにかかっているでしょうか?
CD45dim領域とリンパ球領域、というパターンが多いと思います。
CD45-SSCgating.png
それぞれのゲートの中身を見ていきます。

報告書の下の方にそれぞれのゲートの解析結果が載っていると思います。
まずおおまかに見て、明らかな異常(例えばCD45dim領域に50%の細胞が存在しているとか、リンパ球領域でκ/λに明らかな偏りがあるなど)があれば、その異常細胞の表面抗原(phenotype)を確認しましょう。
Aberrant expressionの有無も確認しましょう。異常細胞が検出できるかもしれません。

明らかな異常がないと思ったら、ゲートの中の細胞の割合を見ておきましょう。
特にリンパ球領域はT細胞(CD4とCD8も)、B細胞、NK細胞がそれぞれ何%ずつ存在しているかを確認しましょう。
T細胞はCD3陽性細胞、B細胞はCD19陽性細胞、NK細胞はCD2陽性細胞とCD3陽性細胞の差、単球はCD14陽性細胞でしたね。
これらの細胞の割合の合計は100%ぴったりにはなりません(90~110%くらいになることが多いです)が、100%から大幅に乖離している場合には異常な細胞が存在していないか、もう一度よく見てみましょう。

もし、どのゲートにも明らかな異常細胞がなければ、フローサイトメトリーでは明らかな異常を指摘できない、と判断します。ただ、本当に「異常がない」と自信を持って言うためにはある程度の経験が必要だと思います。

それでは、フローサイトメトリーによる解析を見ていくことにしましょう。

まとめ
病態・疾患を想定しつつ、ゲートごとに異常細胞がいないか中身を確認していく。
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