フローサイトメトリーの読み方

造血器悪性腫瘍を診断するためのフローサイトメトリーの見方についてのブログです。 血液疾患を診療する医師、および末梢血や骨髄の検査を担当する検査技師向けの内容になります。

FCMによる解析

Case 011

消化管に腫瘤性病変を認めました。 内視鏡所見でリンパ腫が疑われていたため、生検検体をフローサイトメトリーに提出しました。
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7AAD-SSCで展開し、7AAD陽性の死細胞を外しています。7AAD陰性の細胞(生細胞)をFSC, SSCで展開し、gateAとgateBの中身を見ています。大きな細胞(FSCが高い細胞)の領域がgate(A)、小細胞領域がgate(B)となっています。

gate(A)には25.1%の細胞が存在しています。
κ鎖陽性細胞がほとんどで、CD19, CD20も陽性なのでクローナルなB細胞が存在すると判断できます。B細胞性リンパ腫でしばしば陽性になるCD5やCD10は陰性です。

gate(B)はT細胞 93.6%(CD4 65.9%、CD8 29.4%)、B細胞 5.4%、NK細胞 2.0%です。この領域でもκ/λは8.2/0.2とκに偏っており、リンパ腫細胞が少し混入しているようです。

病理診断はDiffuse large B-cell lymphoma (non-GC type)でした。

フローサイトメトリーの所見
大細胞領域にCD19+CD20+κ+(CD5, CD10は陰性)のクローナルな細胞集団を認め、B細胞性リンパ腫と考える。

Case 010

高齢男性。汎血球減少と末梢血中への芽球の出現を認め骨髄検査を施行。

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CD45dim領域(gate1)に15.6%の細胞を認めます。
ゲート内の細胞はほぼすべてがCD33陽性です。CD13、CD34は一部陽性です。
CD13, CD33, CD34は未成熟な正常骨髄系の細胞でも発現します。そのため、ゲート内の細胞が正常な細胞であるか異常な細胞であるかをフローサイトメトリーだけで区別することは難しいと思います。ただ、通常はCD45dim領域に15%もの細胞がいることはないので、骨髄芽球が増加しているんだろうという判断にはなります。

リンパ球領域(gate2)に23.3%の細胞を認めます。
ゲート内において、T細胞 74.8%(CD4 46.1%、CD8 30.3%)、B細胞 4.6%、NK細胞 74.4+19.0-74.8 = 18.6%。この領域に明らかな異常細胞は指摘できません。

骨髄の鏡検では異形成があり、芽球を15.4%認めました。MDS RAEB-2と診断しています。


ここからは蛇足かもしれませんが、実際にフローサイトメトリーの結果を解釈するときに判断に迷う点について触れます。
gate1の中のCD33陽性細胞はGP-Aが弱陽性のようにも見えます・・・が、あえてGP-Aについて言及する必要はないと思います。この症例のように、GP-Aが弱陽性に見えることはよくあります。じゃあこれが赤芽球系の細胞か、あるいはaberrant expressionかというと・・・そこまでは言い難いと思います。
CD7も弱陽性のように見えます。ただ、CD7については非特異な蛍光にも見えるので・・・微妙ですね。これもことさらにCD7陽性と解釈する必要はないと個人的には思います。ただ、このような例で治療経過中や、再発した時に異常細胞のCD7陽性がはっきりしてくることもあります。なので、CD7については弱陽性かもしれないな・・・と思っておいても良いと思います。

なんとなく歯切れが悪い感じになりましたが、フローサイトメトリーでは特定の抗原について陽性とも陰性とも断言しにくいことはよくあります。臨床診断や、フローサイトメトリーの結果で治療方針が変わるかどうか・・・という点もあわせて総合的に判断していくしかないと思います。


フローサイトメトリーの所見
CD45dim領域にCD33+(CD13, CD34は一部陽性)の細胞を全体の約15%認める。

Case 009

背部痛と貧血、腎機能障害、Mタンパクを認め骨髄検査を施行。

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CD38とSSCで展開した図で、CD38の発現が高い領域(CD38high)にゲートをかけて解析しています。CD38high領域内の細胞は40.6%です。
CD38high領域ではcyκ/cyλ = 0.1/85.4で、ほぼ全ての細胞がcyλ陽性です。クローナルな細胞集団であり、多発性骨髄腫と考えます。先述のように、多発性骨髄腫では細胞質内のκ/λ比を見ます。
本症例ではCD19、CD56ともに陰性です。形質細胞は通常CD19陽性、CD56陰性なので、この点からも異常な形質細胞と言えます。

骨髄の鏡検像や免疫電気泳動の結果などから、多発性骨髄腫(IgG-λ type)と診断しました。

フローサイトメトリーの所見
CD38high領域にCD19-CD56-cyλ+の異常な形質細胞を認め、多発性骨髄腫と考える。

Case 008

汎血球減少、末梢血への異常細胞出現とLDH上昇を認め骨髄検査を施行。

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通常のリンパ球よりCD45発現が低い領域gate(1)に39.7%の細胞を認めます。κ/λを見ると、やや発現が弱いですがほとんどの細胞がκ陽性で、クローナルな細胞集団と考えられます。これらの細胞はCD5, CD19, CD20, CD25も陽性、あるいは弱陽性です。CD45の発現はやや弱いですが、成熟B細胞に似た表面抗原です。
以上のことより、CD5陽性のB細胞性リンパ腫と考えます。
CD5陽性のB細胞性リンパ腫としてはCLL、マントル細胞リンパ腫、CD5陽性のDLBCLなどが鑑別に挙がります。フローサイトメトリーの所見から言えるのはここまでだと思います。あとはFISHや病理の所見を待ちましょう。

リンパ球領域(gate2)には14.7%の細胞が存在します。
T細胞 50.6+34.2 = 84.8% (CD4 38.6+9.3 = 47.9%、CD8 34.2%)、B細胞 2.6%、NK細胞 93.8+1.6-84.8 = 10.6%。この領域には明らかな異常細胞は指摘できません。

本例ではFISHでIgH/bcl1融合シグナルを認め、病理診断はマントル細胞リンパ腫でした。

フローサイトメトリーの所見
通常のリンパ球よりCD45がやや弱い領域にCD5dimCD19+CD20+CD25dimκdim(CD10は陰性)の異常細胞集団を認め、CD5陽性のB細胞性リンパ腫と考える。

Case 007

末梢血に芽球を認め骨髄検査を施行。
骨髄検査でMPO陰性の芽球を認めた。

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Gate(1)はCD45dim領域にかけられており、ここに95%の細胞を認めます。急性白血病であることは間違いなさそうです。Gate(1)は少し単球領域寄りにかけられているようにも見えます。
ゲート内の細胞はCD33が陽性。CD56、HLA-DRは弱陽性です。

結論から言うとFAB : M5で単球系の白血病でした。単球系の白血病はCD45ゲーティングでCD45dim領域から単球領域にかけて白血病細胞が見られることがよくあります。

正常な単球はCD4dimですが、単球系の白血病であることを意識してゲート内を見直すと、この症例の白血病細胞もCD4dimのようにも見えます。
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リンパ球領域(gate2)に2.6%の細胞を認めます。
T細胞 63.1%(CD4 28.4%、CD8 34.6%)、B細胞 19.3%、NK細胞 65.8+12.4-63.1 = 15.1%。この領域には明らかな異常細胞は指摘できません。

急性骨髄性白血病(FAB : M5、WHO2008 : AML NOS acute monoblastic leukemia)と診断しました。

フローサイトメトリーの所見
CD45dim領域にCD4dimCD33+CD56dimHLA-DRdim(CD34は陰性)の異常細胞を全体の約95%認める。
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